【レビュー】LG 32UQ850V-Wは正確な色を維持できる実務向けクリエイターモニター

Mac

クリエイター向けモニターの世界は、年々ハイスペック化が加速し、価格が高騰しています。
HDRがどう、USBハブがどう、パネルの新技術がどう……。もちろんそれらは魅力的ですが、日々の制作で本当に重要なのはたった一つ。

「ある程度信用できる色」です。

LG 32UQ850V-Wは、多機能で目立つタイプのモニターではありませんが、クリエイティブな現場に欠かせない「ハードウェアキャリブレーション」に対応。低価格と性能のバランスが非常に良く、そこそこ色を信頼できる「隠れた実務向けモニター」に仕上がっています。

今回、実際にハードウェアキャリブレーションを行い、RAW現像や動画編集に使った感想を中心にまとめました。

LG 32UQ850V-Wのメリットとデメリット

LG 32UQ850V-Wは、価格を10万円以下に抑えつつ色管理に必要な性能を備えたクリエーター向けの31.5インチ4Kモニターです。本記事では、ハードウェアキャリブレーション対応や広色域といったメリット、画面均一性やプロファイル保存の制約などのデメリットを、実測・使用感を交えて詳しく解説します。

32UQ850V-Wの概要

32UQ850V-Wは、派手な多機能こそないものの、ハードウェアキャリブレーション対応、sRGB100%、DCI-P3 98%の色域、そして手が届きやすい価格といったメリットを備えた「実務向けモニター」です。

一方で、コスト削減で簡略化された装備や性能があるのも事実。まずは最初に、これらのメリット・デメリットを解説します。

32UQ850V-Wのメリット

1、ハードウェアキャリブレーション対応で主要測色機がそのまま使える

32UQ850V-Wは、X-RiteやDatacolor製といった主要な測色機をそのまま利用可能で、すでに測色機を所有するユーザーは追加投資なしに色管理環境を整えられます。

LG純正で無料で利用できる「Calibration Studio」は、多機能ではありませんが基本機能は必要十分。モニター内部に直接書き込むハードウェアキャリブレーション方式を採用します。

MacとWindows両方で色が安定し、複数PCを切り替えて使うユーザーや写真・動画編集の色再現性を重視する人に特に魅力的です。

2、価格が安価でEIZO・BenQの同クラスより導入しやすい

EIZO ColorEdgeやBenQ SWシリーズなどハードウェアキャリブレーション対応モニターは高価格帯が中心です。32UQ850V-Wは、最低限の機能を備えつつ価格が抑えられており、必要な性能を確保しながら導入コストを抑えられます。

「色を整えたいけど高価なモデルは避けたい」という人にとって、コストパフォーマンスの高さは大きなメリットになります。

3、sRGB100%、DCI-P3 98%で高色域表示も安心

32UQ850V-Wは、sRGB100%、DCI-P3 98%の広色域を備えています。業務で必須条件になるsRGB基準の色を正確に表示でき、映像本来の色を忠実に確認できます。

ハードウェアキャリブレーションと組み合わせることで経年劣化による品質低下を抑えられ、迷いの少ない編集環境を構築可能です。

DCI-P3の98%と100%の差は人間には判別できず、実務上問題になることはありません。

4、モニタースタンドの奥行きがコンパクトで設置自由度が高い

32UQ850V-Wは、スタンドが非常にコンパクトで、机の奥行きが限られている環境でも壁から約18cm前に設置可能です。EIZOモニターは20〜25cm前後の製品が多く、奥行きの小さいデスクで圧迫感を軽減できます。

狭い作業スペースでも書類の置き場所を確保でき、ワーキングディスタンスも十分確保できるため、老眼ユーザーでも快適に作業が行えます。

32UQ850V-Wのデメリット

1、カスタムキャリブレーションの測定値は1つしか保存できない

32UQ850V-Wは、ピクチャーモードに1つのキャリブレーション設定しか保存できない制限があります。そのため、ピクチャーモードで複数カスタムプロファイルを用途に応じて切り替える場合、都度キャリブレーションが必要となります。

複数プロファイルを簡単に切り替えられるEIZOやBenQに比べ劣る部分で、柔軟性はやや制限されます。そのため、1日に何度も色域を変更するような現場においては、32UQ850V-Wはストレスを感じるでしょう。

しかし、ピクチャーモードにプリセット済みのsRGBとP3-D65(ガンマ2.6)はハードウェアキャリブレーションを行うことができます。そのため、ピクチャーモードのキャリブレーション設定に印刷用Adobe RGB(色温度5000K)を作成すれば、デザインや写真用途で、まったく問題にならないはずです。

2、白色点をマニュアル設定できない

LG Calibration Studioは、白色点の設定は色温度(K)でのみ調整可能で、白色点の数値を直接指定することはできません。

印刷業務や映像制作など、正確な白色点を基準にした色管理が必要な場合には、おすすめできません。

3、画面明るさの均一性は上位モデルより若干劣る

画面の輝度や色ムラの均一性はEIZO ColorEdgeほど完璧ではありません。四隅のわずかな暗部や階調の微妙なズレを気にするユーザーには不満が残る可能性があります。

ただし、写真や動画編集の実務ではほとんど影響がなく、通常作業では十分な精度を備えています。

4、モニター電源が別体式

32UQ850V-Wの電源は、本体内蔵ではなく外部ACアダプターから供給されます。

USB-C接続の場合、最大供給90Wまで対応できますが、アダプターのサイズは大きくなります。机上で電源まわりが少しごちゃつきやすく、設置環境によっては取り回しに工夫が必要です。

まずは結論

LG 32UQ850V-Wは、色管理に必要な性能をしっかり押さえつつ、価格を抑えた実務向けモニターです。上位モデルに比べ均一性やプロファイル保存数に制約はあるものの、日常の写真・動画編集ではほとんど問題になりません。

すでに測色機を持つユーザーにとって、必要十分な性能で「これで十分」と感じられる、非常にコストパフォーマンスの高い選択肢です。

LG 32UQ850V-Wの開封

LG 32UQ850V-Wは、箱自体は一般的な32インチモニターよりやや大きめで、梱包はしっかりしています。

開封すると、まずモニター本体が厚手の緩衝材で包まれており、画面に傷が付かないよう十分配慮されています。

付属品は、スタンド、外部AC電源、電源ケーブル、DisplayPortケーブル、HDMIケーブル、USBタイプCケーブル、USB2.0ケーブル、セットアップガイド、保証書です。

付属するケーブル類は一通り揃っているので、別途購入する必要はありません。

スタンドは組み立て式で、工具なしで組み立てられます。

本体とスタンドの組み付けは、溝に合わせて固定するだけ。着脱は工具なしでおこなえます。

外観はシンプルで落ち着いたデザイン。ベゼルは細めで作業画面に集中できます。

背面は白色の無塗装仕上げです。

スタンド支柱からモニター前面までの距離は約18cm(手持ちの27インチEIZOモニターは24cm)。32インチの大画面ですが、壁に寄せて設置できるので、奥行き60cmのデスクに置いてもワーキングディスタンスを確保できます。

電源の大きさは縦182mm、横85mm、厚さ30mm。大型ですがフロアに設置してもコードが届くので困りません。

LG 32UQ850V-Wを Windows11環境で使用する

LG 32UQ850V-WをWindows11を搭載した自作PC(Ryzen 7 5800X、RTX4070Ti)に接続した状態で画面表示しました。

デフォルト状態は、解像度3840×2160で認識され、150%拡大表示に設定(上写真)されました。解像度2,560×1,440を等倍表示した状態に類似しています。

気になる常時輝点は1つもありませんでした。過去購入したNECやEIZOのColorEdgeシリーズは、4台中1台に常時輝点があったので、今回は運がよかったようです。

Photoshopの表示例

Photoshopをデフォルトの「3840×2160、150%表示」の設定で表示した画面はこんな感じ。メニュー画面もしっかり認識できます。

Photoshopを「3840×2160、100%表示」の設定に変更した画面はこんな感じ。表示範囲が広くなりますが、メニューの文字が小さすぎ、私の目では扱いづらい印象です。

Lightroom classicの表示例

Lightroom Classicをデフォルトの「3840×2160、150%表示」の設定で表示した画面はこんな感じ。メニュー画面もしっかり認識できます。

LG 32UQ850V-Wのピクチャーモード

LG 32UQ850V-Wのピクチャーモードは、ユーザー設定(目視による調整)、プリセット(sRGBとP3-D65)、キャリブレーションの3項目から選択できます。

ピクチャーモードのプリセット

LG 32UQ850V-Wのピクチャーモード設定値

ピクチャーモード 色域 色温度 ガンマ
sRGB sRGB 6500K 2.2
P3-D65 P3 6500K 2.6

sRGBは、PC業界標準の設定です。P3-D65は、P3の色域にガンマ2.6を適用した映像向け(!?)の設定になります。

LG 32UQ850V-Wは、映像制作を重視した作りになっていると感じる部分です。

ピクチャーモードのキャリブレーション

以下で紹介する「LG Calibration Studio」を使い、ハードウェアキャリブレーションした設定がピクチャーモードのプリセットに保存されます。

LG 32UQ850V-Wの弱点克服案

EIZOのColorEdgeやBenQのSWシリーズなどのハードウェアキャリブレーションモニターは、プリセットが多く設定され、独自設定も複数保存できるのが一般的です。また、EIZOは1度のキャリブレーション処理で、全ての設定に反映できる機能を備えています。

LG 32UQ850V-Wは、ピクチャーモードのキャリブレーション設定を変更するごとにハードウェアキャリブレーション作業を行う必要があります。

弱点克服1:ピクチャーモードのプリセットを魔改造

個人的なイレギュラーな使い方になりますが、LG 32UQ850V-Wは、ピクチャーモードの「sRGB」と「P3-D65」についても、ハードウェアキャリブレーションできるようです。

sRGBはそのままの設定で、ハードウェアキャリブレーションを行うことで経年劣化による表示の狂いを正確に補正できます。

P3-D65については「色域:P3 色温度:6500K ガンマ:2.2」の設定でハードウェアキャリブレーションをおこなうことで、Macの「Display P3」に類似するプロファイルに魔改造できます。

この方法は、メーカー公式の使い方から逸脱した使い方です。
ご理解の上、下図のように3種類のハードウェアキャリブレーション済みのプロファイルを運用できるわけです。
ピクチャーモード 色域 色温度 ガンマ
プリセット sRGB
(Web制作など)
sRGB 6500K 2.2
プリセット P3-D65
(擬似 Display P3)
P3 6500K 2.6から2.2に変更
キャリブレーション
(印刷制作など)
AdobeRGB 5000K 2.2

ピクチャーモードのプリセットにハードウェアキャリブレーションを行うと「sRGB(キャリブレーション)」「P3-D65(キャリブレーション)」と表示されます。

ピクチャーモード・プリセットのハードウェアキャリブレーションの解除方法
「工場出荷時に戻す」で標準状態に復帰できると思います。
弱点克服2:AdobeRGBやRec.709はプロファイル読み込みで作成

その他のプロファイルは、ピクチャーモードのキャリブレーションを活用した運用になります。

「LG Calibration Studio」を起動し、AdobeRGB1998.iccやRec.709.iccのプロファイルを読み込み、ハードウェアキャリブレーションした設定をピクチャーモードのキャリブレーションに登録できます。

AdobeRGBの場合、色温度5000Kや6500Kに調整可能。
Rec.709は、ガンマ2.4やガンマ2.6に設定変更することで、最低限の業務用途で使用できます。

LG 32UQ850V-Wでハードウェアキャリブレーションをする

LG 32UQ850V-WでAdobe RGBを設定する方法を例に紹介します。

ハードウェアキャリブレーションを行うためにはLGウェブサイトにアクセスし「LG Calibration Studio」をダウンロードします。そして、お使いのパソコンにインストールします。

LG 32UQ850V-WとパソコンをUSBケーブルで接続します。その後、測色機をUSBケーブルで接続し、LG Calibration Studioを起動します。

LG Calibration Studioを起動すると操作パネルが表示されます。

上の写真はキャリブレーション設定で、「Adobe RGB」を印刷用に設定する方法を紹介するものです。

目標値
ピクチャーモード:キャリブレーション 色域:プロファイルをロードする
目標値にある「ピクチャーモード」と「色域」を上記の通りに設定します。
Cドライブ>Windows>System32>spool>drivers>color
色域のプルダウンメニューの「プロファイルをロードする」を選択すると上記のフォルダーが開きます。収録されたICCプロファイルの中から「AdobeRGB1998.icc」を選択します。
「AdobeRGB1998.icc」プロファイルがない場合は下記サイトからICCプロファイルを入手し、上記フォルダーにペーストします。
https://www.color.org/chardata/rgb/rgb_registry.xalter
輝度:80〜100程度 色温度:5000K〜5500K ガンマ:2.2
「AdobeRGB1998.icc」プロファイルを使った印刷用の輝度は、作業環境の明るさに合わせて80〜100程度、色温度は5000K〜5500K、ガンマは2.2に設定します。
本来はD50と5000Kの白色点は異なるようです。LG Calibration Studioは、白色点を数値で指定できないので妥協します。
参考
※D50 xy色度座標 (0.34567, 0.35850)  色温度5003K
画面右下にある「開始ボタン」をクリックします。
測色機のカラーモンキーデザインを接続し、初期化を行います。
初期化が完了すると画面中央の測色エリアが表示されます。
測色エリアにカラーモンキーデザインを設置します。「次へボタン」をクリックすると測色が開始します。作業時間は15分程度かかります。
測色が完了するとカスタムICCプロファイルが生成され、自動的にモニタプロファイルとして適用されます。
AdobeRGB1998の印刷用設定がピクチャーモードのキャリブレーションに適用されます。

測色方式は2タイプから選択可能

LG Calibration Studioの測色方式は、「マトリックベース」と「テーブルベース」があります。設定(複数)の項目で設定できます。

マトリックベース

マトリクスベースの測色方式は、少数の測定パッチにより、ディスプレイカラーの特性に基づき、キャリブレーションを行う方式です。計測時間が短くなります。

テーブルベース

テーブルベースの測色方式は、より多くの測定値を用いて、正確な色再現用のキャリブレーションを行う方式です。高精度な反面、計測時間が長くなります。

LG 32UQ850V-Wのキャリブレーション精度を検証

LG 32UQ850V-WのsRGBをLG Calibration Studioでハードウェアキャリブレーションした時の精度を検証しました。測色方式は、高精度のテーブルベースを選択しました。

sRGB設定時のデルタE値(平均)は1.37でした。

EIZO ColorEdge GCシリーズなら、デルタE値(平均)は1以下が当然なので、EIZO製品と比較すると色の正確さは若干劣る印象です。

しかし、ASUSのデザイン用モニター「ProArtシリーズ」は、工場出荷時の色精度がデルタE値が2以下が基準なので、LG 32UQ850V-Wの色精度はかなり高いことがわかります。

また、ProArtシリーズはハードウェアキャリブレーションを搭載していないため、経年変化でデルタE値は徐々に悪化していきます。その点、LG 32UQ850V-Wはハードウェアキャリブレーションを行うことで経年劣化による色の狂いをデルタE値1.37付近まで回復できます。

色の正確さは、EIZO ColorEdgeのGCシリーズに劣るものの、LG 32UQ850V-WはEIZO ColorEdge GCシリーズの3分の1以下の価格で入手できることを考慮すると、及第点に収まる人も多いのではないでしょうか?

まとめ

EIZOやBenQのハードウェアキャリブレーションモニターは、高性能で使いやすい反面、価格が高価です。

その点、LG 32UQ850V-Wは、一般的なモニターとしては高価ですが、ハードウェアキャリブレーションモニターとしては破格です。

運用次第で、フリーランスや趣味用途なら及第点に収まる可能性を秘めたおすすめ製品です。

この記事を書いた人
ちゃんまさ

雑誌編集部勤務を経て、個人制作会社を設立。30年以上にわたり雑誌取材、企業案件、TV番組の撮影・ディレクションに従事。現在はカメラ・レタッチ・動画編集などの実務情報を発信中。
ソニーイメージングプロサポート(SIPS)会員/ニコンプロフェッショナルサービス(NPS)会員。
業務で実際に使用してきた機材をベースに、現場視点で信頼性あるレビューをお届けします。

ちゃんまさをフォローする
スポンサーリンク
シェアして頂けると励みになります!

コメント

タイトルとURLをコピーしました