ソニーのEマウント(フルサイズ)用レンズ「FE 70-200mm F2.8 GM OSS II(SEL70200GM2」が、正常進化を遂げ、2021年11月26日に発売されました。市場価格は税込33万円前後。新旧スペックを中心に新型レンズのポテンシャルを考察しました。
進化したポイント
画像引用:ソニー
●大幅な軽量化を実現
●近くまで寄れて大きく撮影できる
●AFスピードの高速化
●フルタイムDMF採用
●手ぶれ補正にMODE3搭載 など
旧型レンズ「FE 70-200mm F2.8 GM OSS」は、GMレンズ黎明期の2016年9月に発売された製品です。フォーカス駆動用モーターにリング式超音波モーターを用い、巨大な前群レンズを駆動する一眼レフ時代のメカニズムを採用したレンズです。ミラーレス用レンズとしてトップを走り続けてきましたが、各社からミラーレス一眼が出揃った昨今「AFスピード・レスポンス・制御」で見劣りするようになってきました。FE 85mm F1.2 GMも同様です。
今回発売された新型レンズ「FE 70-200mm F2.8 GM OSS II」は、約5年ぶりのフルモデルチェンジになります。GMレンズの最高峰といわれる600GMや135GMで培った技術を惜しむことなく搭載し、ミラーレス一眼時代の最新トレンドを満載したスペックで仕上げられた製品です。
メーカーWEBサイトでスペックシートを確認すると、旧型のネガ部分が徹底的に改善されています。ソニーEマウントシステムのこれからを牽引するレンズといえそうです。
ライバルのキヤノンRFシステムは、レンズ設計に変化球を多用するに対し、ソニーEマウント純正レンズは「ど真ん中の直球勝負」でグイグイ攻めくる印象です。安価な汎用レンズは、互換レンズメーカーに任せる方針なのかもしれませんね。
スペック比較
画像引用:ソニー
ソニー公式サイトから主要スペックを抜粋しました。
FE 70-200mm F2.8 GM OSS II SEL70200GM2 |
FE 70-200mm F2.8 GM OSS SEL70200GM |
|
焦点距離(mm) | 70-200 | 70-200 |
レンズ構成 (群-枚) | 14-17 | 18-23 |
開放絞り (F値) | 2.8 | 2.8 |
最小絞り (F値) | 22 | 22 |
絞り羽根 (枚) | 11 | 11 |
円形絞り | ○ | ○ |
最短撮影距離 (m) | 0.4-0.82 | 0.96 |
最大撮影倍率 (倍) | 0.3 | 0.25 |
フィルター径 (mm) | 77 | 77 |
コーティング | ナノARコーティングII フッ素コーティング |
ナノARコーティング フッ素コーティング |
硝材 | 超高度非球面レンズ1枚 非球面レンズ1枚 ED非球面レンズ1枚 スーパーEDガラス2枚 EDガラス1枚 |
超高度非球面レンズ1枚 非球面レンズ2枚 EDガラス4枚 スーパーEDガラス2枚 |
モーター | XDリニアモーター4基 | リングドライブSSM1基 リニアモーター2基 |
手ブレ補正 | レンズ内手ブレ補正方式 MODE1/2/3 |
レンズ内手ブレ補正方式 MODE1/2 |
フォーカスホールドボタン | ○ | ○ |
フルタイムDMF | ○ | ー |
絞りリング | ○ | ー |
操作スイッチ | フォーカスモードスイッチ フルタイムDMFスイッチ フォーカスレンジリミッター 手ブレ補正スイッチ 手ブレ補正モードスイッチ アイリスロックスイッチ 絞りリングクリック切り換えスイッチ |
フォーカスモードスイッチ フォーカスレンジリミッター 手ブレ補正スイッチ 手ブレ補正モードスイッチ |
テレコンバーター対応 | SEL14TC SEL20TC |
SEL14TC SEL20TC |
外形寸法 最大径x長さ (mm) | 88 x 200 | 88 x 200 |
質量 約 (g) | 1045 (三脚座別) | 1480 (三脚座別) |
付属品 | フード・レンズフロントキャップ・レンズリヤキャップ・ソフトケース・三脚座 | フード・レンズフロントキャップ・レンズリヤキャップ・ソフトケース・三脚座 |
発売日 | 2021年11月26日 | 2016年9月 |
ソニーストア価格 | 33万円予想 | 32万9593円 |
AF性能
XDリニアモーター4基搭載によりAF性能が向上
画像引用:ソニー
旧型レンズは、フォーカス調整時にレンズ前群の大径レンズをヘリコイドやカムを介してリング式超音波モーターで制御する構造のため、ギクシャク感や駆動音が発生することがありました。
新型レンズは、フォーカス時に移動するレンズ群を小径化して「FE135mm F1.8 GM」で培われた4基のXDリニアモーターを搭載。その結果、AFスピードは旧型に比べて約30%向上し、AF-C撮影時の追従性の向上や動画撮影時の無音撮影に対応します。
細かな点では、AF作動時のズーム操作の追従性が約30%アップしたことは見逃せません。設計の古いEマウントレンズは、ズームリングを高速に操作をすると「ピントが飛ぶ」現象が現れる傾向がありました。動画ユーザーにとっては「ズーム操作するとピントが飛ぶ!」と結構な致命傷だったので、このあたりの改良は地味に嬉しいポイントですね。
絞りF22設定時のAF-C追従
●α1に装着した場合
メカシャッターと電子シャッター、各種設定により連写コマ数やAF-C追従の条件が変わります。とりあえず、電子シャッター時に[AF時の絞り駆動]を[フォーカス優先]を設定した場合、F22でもAF-Cが作動します。最高コマ数は最高30コマ/秒連写に対応します。
●α9IIに装着した場合
メカシャッターと電子シャッター、各種設定により連写コマ数やAF-C追従の条件が変わります。とりあえず、電子シャッター時に[AF時の絞り駆動]を[フォーカス優先]に設定した場合、F16でもAF-Cが作動します。最高コマ数は最高20コマ/秒連写に対応します。
軽量化
マグネシウム合金部品多用とレンズ枚数削減
新型レンズは、鏡筒素材に「FE 600mm F4 GM OSS」や「FE135mm F1.8 GM」に搭載された技術が流用され、マグネシウム合金部品を多用した贅沢な設計になっています。
その他、AF駆動用モーターをリング式超音波モーターから最新型のXDリニアモーターの変更、レンズ枚数を23枚から17枚に低減することにより、旧型の1,480gから新型は1,045gへ「約30%の軽量化」を実現しました。
各社70-200mmクラスのレンズ重量
FE 70-200mm F2.8 GM OSS II(新型) | 1045 g(三脚座別) |
FE 70-200mm F2.8 GM OSS(旧型) | 1,480g (三脚座別) |
RF70-200mm F2.8 L IS USM | 約1,070g(三脚座含まず) |
NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S | 約1360g(三脚座なし) |
70-180mm F/2.8 Di III VXD (Model A056) | 810g |
参考 FE 70-200mm F4 G OSS | 840g (三脚座別) |
光学系
画像引用:ソニー
レンズ構成は、光学系が一新され高性能レンズ(超高度非球面レンズ1枚、非球面レンズ1枚、ED非球面レンズ1枚、スーパーEDガラス2枚、EDガラス1枚)を数多く配置した贅沢な設計です。反射防止のコーティングは、ナノARコーティングIIへ進化しましたが「逆光耐性が向上した」という情報と「低下した」との情報が錯乱しています。
SONY FE 70-200mm F2.8 GM OSS II(新型) |
14群17枚 |
超高度非球面レンズ1枚、非球面レンズ1枚、ED非球面レンズ1枚、スーパーEDガラス2枚、EDガラス1枚 | |
ナノARコーティングII、フッ素コーティング | |
CANON RF70-200mm F2.8 L IS USM |
13群17枚 |
非球面レンズ1枚、スーパーUDレンズ1枚、UDレンズ3枚、UD非球面レンズ1枚 | |
特殊コーティングSWC、フッ素コーティング | |
NIKON NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S |
18群21枚 |
EDレンズ6枚、非球面レンズ2枚、蛍石レンズ1枚、SRレンズ1枚 | |
ナノクリスタルコート、アルネオコート、フッ素コート |
MTF比較
MTF曲線から新旧画質の違いを考察しました。
画像引用:ソニー
70mm
70mm領域のMTF曲線は、絞り開放時の高周波領域(30本/mm数値)に差が確認できます。
新型レンズは、精細な描写を示す30本/mm(同心円)のコントラスト値が中心部で90%前後を示すのに対し、旧型はコントラスト値80%程度に留まっています。新型レンズは、絞り開放からカリッとした描写が得られることが推測できます。
FE 85mm F1.2 GMと比較した場合、F8まで絞り込んだMTF曲線を比較しても同等の解像力を発揮しており、素晴らしい解像力を発揮するレンズであることがわかります。
絞りをF8まで絞り込むとMTF数値の差が少なくなります。三脚を使用し、絞り込んだ撮影する人は、新型レンズの恩恵をうけづらいかも知れません。
画像引用:ソニー
200mm
70mm領域のMTF曲線は、開放絞り時&F8撮影時とも周辺部分の解像度が劇的に改善されました。30本/mm(同心円)のコントラスト値が絞り開放から85%以上、F8まで絞り込むと90%ぐらいまで上昇するので、単焦点レンズに迫る精細な描写を期待できそうです。とくにフルサイズ周辺部の画質については、新型レンズに軍配があがります。
FE 135mm F1.8 GMと新型レンズの200mmを比較すると、絞り開放は135mmGMが若干勝りますが、F8まで絞り込むとAPS-C領域までの数値は近似しており、ズームレンズとしてはすばららしい解像力といえます。
中心部だけに限定すると、開放時の精細な描写を示す30本/mm(同心円)のコントラスト値が新旧レンズともに90〜95%をキープしており、ポートレートのような撮影シーンにおいては違いがわかりづらいかも知れません。
最短撮影距離
最短撮影距離は、旧型の全ズーム領域96cmから新型は82cm〜40cmまで可変して寄れるようになりました。ただし、40cmまで寄れるのは広角端であり望遠端は82cmです。
黎明期のGMレンズ「寄れないイメージ」でしたが、今後登場する新型レンズは、寄れるレンズに変貌を遂げそうな予感ですね。
フィルター径
フィルター径は77mmを踏襲。高価な「NDフィルターやPLフィルター」が流用できるのは嬉しいです。
大三元のFE 16-35mm F2.8 GMとFE 24-70mm F2.8 GMはフィルター径が82mmです。両モデルとも黎明時代のGMレンズだけに、モデルチェンジされるときは77mmに変更されることを熱望します。
テレコン対応
テレコンは、1.4倍と2倍に対応します。望遠端のMTF曲線が絞り開放から優れた解像力を発揮するため、1.4倍テレコン装着時の画質は及第点におさまると思います。ただし、絞り開放時の周辺光量落ちは覚悟する必要がありそうです。
2倍テレコン装着時の画質は、互換レンズメーカーの500〜600mmクラスのズームレンズに劣るかも知れません。あくまでも緊急的な用途になりそうです。
周辺光量落ちとボケ
海外サイトで実写サンプルを確認しました。MTF曲線が示す通り、絞り開放から高精細な描写で撮影されていました。レンズ枚数が削減されたことにより、コントラストが向上し、抜けの良さが改善された印象を受けました。
ネガな点としては、最新ソニーレンズに共通する「絞り開放時の周辺光量落ち」が確認できました。非球面レンズ採用により解像度が向上する反面、ボケ味については境界にリングが強調される硬い描写が確認できました。新型レンズは「解像度重視」の味付けといえそうですね。
手ぶれ補正MODE3対応
旧型レンズの手ブレ補正は、「MODE1・2」の搭載にとどまっていますが、新型レンズは「MODE3」が搭載されました。停止しているモノの撮影は、それなりに低スピードで撮影できます。
手ぶれ補正については、ソニーの伝統的に動きモノ撮影の相性が良くありません。手ぶれ補正由来の「微ブレ」が発生します。上級者やプロの多くは画質を優先する時、手ぶれ補正はOFFにします。手ぶれ補正由来の「微ブレ」の原因を知っている人は、ぜひ教えてください!
フルタイムDMF
フルタイムDMFは、AF-C撮影時に切り替えなしでMF操作できる機能です。「FE 600mm F4 GM OSS」などに搭載され、とても使いやすくて実践的な機能です。
しかし、フルタイムDMFでMF調整しても、人指し指AFの設定だとシャッターを切る時にAFが動作するためピントがずれてしまいます。人指し指AFの場合は、半押しの状態を維持する必要があるため運用は難しいというのが本音です。
親指AFの人は、使いやすい機能だと思います。
絞りリング搭載
新型はズームリング手前に絞りリングが配置されました。「FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSSのズームトルク調整リングに該当する場所」といえばわかりやすいでしょうか。絞りリングは「Aポジション」と「F2.8〜22」の目盛りが付き、リングを固定する絞りリングロックスイッチを備えます。
Eマウントレンズの絞りリングは「単焦点GMレンズ」に採用される傾向です。ズームレンズがメインの人には馴染みない機能ですよね。
個人的には「操作系は統一したい派」です。単焦点GMレンズを複数所有する人は慣れ親しんだ機能かもしれませんが、ズームレンズ中心に揃えている人は、このレンズだけレンズ側で絞り操作をするのは馴染めないかも知れません。
絞りリングはクリック感の有無を設定できるスイッチが付属します。動画ユーザーが多いソニーらしい配慮ですね。
まとめ
多くの人にとって「軽さは正義」「高速AFは正義」になるはずです。絞り開放から優れた解像度を発揮する味付けなので、過酷(暗い)な撮影環境下においてもポテンシャルを発揮してくれるに違いありません!
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